ご無沙汰しております。
オンライン予約システム稼働に全力をささげていたので、久しぶりの更新になってしまいました。
以前にも書いた通り、胃腸に関するネタが尽きてきましたので、これからしばらくは消化管から離れたネタで書いていきたいと思ってます。
今回取り上げるのは、当院を受診される方の中で上位にランキングされる主訴、「肝機能障害」です!
会社の検診や人間ドック、献血時採血で指摘されることの多い肝(機能)障害。
これを気にして、検査前日はいつも飲んでいるお酒を我慢して検査に臨んだ経験のある方も多いのではないでしょうか。
ただ、肝障害はお酒を飲む人だけの問題ではなく、その原因としては一時的で自然に改善するものから、長期的に治療や経過観察を要するものまで様々です。
今回は肝障害を引き起こす原因の紹介と、僕たち消化器内科医がどのような目線で原因を探っていくのか、どのような検査を行うのかを紹介したいと思います。
まずは、考えられる病名を列記します。
① 脂肪肝 (非アルコール性脂肪性肝疾患:NAFLD)
② アルコール性肝障害
③ 薬剤性肝障害
④ 感冒などに伴う一過性肝機能障害
⑤ ウィルス性慢性肝炎 (B型肝炎、C型肝炎)
⑥ その他の慢性肝炎 (原発性胆汁性胆管炎:PBC、自己免疫性肝炎:AIHなど)
⑦ 肝臓がんや胆石など、器質的異常
上記以外にも散々検査しても原因を同定できず、時間とともに値が正常化したので良しとするか、といった症例も散見されますが、それはおいておきます。
<診察手順>
まずは身体観察と問診から始まります。
・体型から肥満が認められる方は、①を疑います。
・目や皮膚に黄疸がみられる場合は、⑦や②③を疑い、早急に精査を進めます。
・問診では、アルコール摂取量や薬物服用歴、輸血歴を確認します。それぞれの有無・程度から②③⑤の可能性を探ります。
・また、検査日の数日程度前に、のど痛や発熱など風邪症状がなかったかも確認します。あれば④の可能性も考えられます。
続いて、持参された検診結果を精読します。
・ここ数年で徐々に体重増加があり、それとともに肝機能検査値も徐々に上昇してきていれば①の可能性大です。
・体重とは関係なく、肝機能検査値が年度により上がったり下がったりしている場合は⑤⑥の可能性があり、要注意です。
検査値については
・AST(GOT)、ALT (GPT)の数値が2桁であれば、それほどあわてる必要はありません。
3桁・4桁になっている場合は、肝障害の程度が強く、早急な精査または入院が必要です。
・AST<ALTの場合は、脂肪肝である可能性が高めです。
・補助診断項目としては、γ-GTP、ALP、血小板数、アルブミン(Alb)などを見ます。
前2者は胆道系酵素とよばれ、これらも上昇している場合は③や⑤⑥を疑います。
また後2者は肝臓の元気度(予備能)を評価できるもので、これらが低下している場合はより深刻な肝障害を考え、早急な精密検査を行います。
<追加検査>
診察・問診でおよその病態を予測したうえで、必要な検査やその施行時期を決めます。
初診の方の場合は、血液検査にて「肝機能の再評価」「各慢性肝炎マーカーチェック」を行い、エコー(超音波)検査にて「脂肪肝の有無評価」「肝硬変化の有無評価」「がんや石の有無評価」を行います。(すでにドック・検診で確認済みの内容は省略します)
体重増加による脂肪肝が強く疑われる場合には、あえてすぐには再検査をおこなわず、体重を2-3kg減らしてから再検査を受けるように指導することもあります。
体重が同じのまま再検査をしても、数値の改善が見られなければその後の指導がしにくいからです。
薬剤関連が疑われる場合は、まだ服用中であれば可能な限り中止して1-2週間おいてから再検査を行います。検診の少し前から飲み始めた薬があれば、注意が必要です。
とくに抗生剤や水虫の薬(抗真菌剤)の服用で肝障害出現の頻度が高い傾向にあります。
<診断・治療>
各検査の結果から明らかに除外できる病態を外し、問診内容も加味して残った病態の中から総合的に診断を確定します。
時には、当院の検査結果だけでは確定に至らない症例もありますが、肝障害の程度が軽微なものや改善傾向にあるものは経過観察とし、肝障害が高度なものは病院での精査をお願いします。
治療については、
②③④では、節酒・原因薬物の中止を行ったのちに、肝機能が正常化するまで数か月おきに血液検査フォローを行います。
⑥では、当院にて薬物治療を開始します。
⑤⑦については、精査加療を病院へ依頼します。
①については、基本は食事運動療法ですが、詳しくは次回のブログで解説します♪
以上、検診で肝機能障害を指摘された場合の考え方や流れを紹介しました。
健診指摘のほとんどは、食事の見直し・運動の推奨でおわり薬物療法を要しないものですが、中には放置すると命に係わる危険な病態も潜んでいます。
また、コレステロールや血糖などメタボ疾患との関連も念頭に対処することが重要ですので、自己判断で放置せず、かならず専門科での評価を受けるようにしてください。