今回は、胃カメラ検査の報告書に記載されることが多い「バレット食道」について、かみ砕いて説明します。
検査終了後にもらった報告書に「バレット食道」と書いてあったため、なんだろう?と思いネットで調べたら、「食道がんのリスク」と書いてあって不安になった、という方もいらっしゃるのではないでしょうか。
確かに、「バレット食道」の一部は食道腺がんのリスクファクターと考えられており、定期的な内視鏡検査フォローが必要とされていますが、日本で見つかる大半の「バレット食道」はがん化の恐れはほとんどありません。
がん化の恐れのある「バレット食道」と、そうではない日本の「バレット食道」では何が違うのか?
それは、「変化の程度」です。
定義)
まず、「バレット食道」とはなんぞや?から始めます。
英名はBarrett’s esophagusで、バレットさんが研究報告したことからの命名です。
基礎的な情報として、「食道」の表面を覆っているのは「扁平上皮」と呼ばれる組織で、これは口の中や皮膚を覆っているものと同じです。
対して、食道の向こうの「胃」の表面を覆っているものは「円柱上皮」と呼ばれる組織で、胃酸から自身を守る粘液を分泌する能力を持っています。
本来、胃酸は胃内で分泌され食道に戻ってくる必要はないため、扁平上皮には胃酸から自身を守る能力はありません。
種々の理由で胃酸の逆流(逆流性食道炎)が長期にわたって続くと、胃酸に弱い扁平上皮はただれて剥がれ落ちてしまい、代わりに、自己防衛反応として胃酸に強い胃の円柱上皮が食道側へ延び上がってくる変化が起こります。
この変化がみられる状態のことを「バレット食道」と呼ぶのです。(下図)
分類)
胃酸の逆流により「バレット食道」は発生するわけですが、食道のどれだけの範囲が変性をきたすかは、当然、個々によって差があります。
程度により、以下の2つに分類されます。
① long segment Barrett’s esophagus (LSBE) (図①)
「食道胃接合部」から口側に、「全周性」に「3cm以上」の円柱上皮を認めるもの
日本での罹病率:0.3%程度
② short segment Barrett’s esophagus (SSBE) (図②)
上記以外 (3cm未満あるいは非全周性のもの)
日本での罹病率:15.8%程度
専門医が「バレット食道」と呼び問題視するのは前者のLSBEのことです。
実際、逆流性食道炎になりやすい肥満者の多い欧米では、LSBE由来の食道がんが非常に多く、対策が問題となっています。
ただ日本では、食文化の変化とともにLSBEが見つかることが増えてきたとはいえ、ほとんどの症例は長さ1cmにも満たない、超SSBEがほとんどです。
ここには、几帳面な日本人医師の気質も関係しています。
「無いのが普通」のものがあれば、ごくわずかな変化であっても記載する傾向にあるのです。
発がん率)
LSBEからの食道がんの発生率は年間0.5-1.2%程度と報告されています。
食道の長さは成人で25~30cmもあり、LSBEの中でも程度の差は様々で、長さが長くなるほど、粘膜障害の程度も強く発がん率が上昇すると報告されています。
SSBEについては、程度の軽いものについては医師の間でも「バレット食道」と診断するかどうか分かれる物も多く、正確な発がん率を評価するに値する研究はまだ行われていないのが実情で、はっきりとした発がん頻度は不明です。
ただ、臨床的な感覚からして、SSBEからがん化することは、非常に稀なことであると思われます。
治療)
LSBEに対しては、胃酸を押さえる胃薬を服用してもらったりしますが、それで確実に発がん率を抑えられるという報告は今のところありません。
欧米では、バレット食道を焼灼し除去する治療が行われたりしていますが、日本ではそもそもLSBEがそれほどみられず、一般的な治療とはなっていません。
基本的に、定期的な検診フォローを行い、がん化の早期発見に努めるのみです。
SSBEは、なおさら、特に治療は必要としません。
検診間隔)
以上のことより、
LSBEを指摘された方は、年1回の胃カメラを受けることを推奨します
SSBEを指摘された方は、当ブログの「逆流性食道炎」の項に記載している生活習慣の改善を心がけて頂きたいですが、毎年の胃カメラは必要ないでしょう。
「萎縮性胃炎」の有無・程度に応じた検診を受けて頂き、その際に合わせてSSBEの変化がないかを評価してもらえば十分でしょう。
報告書に「バレット食道」と書かれていても、SSBEなのであれば、がんを心配する必要はまずありませんのでご安心を。
細かく所見を付けてくださる先生に診てもらえて良かったと思っていただいたら結構です。
SSBEかLSBEかの記載がなく判らないのであれば、写真をお持ちいただければ判定いたしますので、遠慮なくご来院ください。